
トリガーポイント療法というと、
「硬いところを探して押す」
「コリを見つけてほぐす」
というイメージを持たれることがあります。
しかし、臨床でトリガーポイントを扱うのであれば、単純な硬結の触診だけでは不十分です。
重要なのは、
その圧痛点が患者の主訴と本当に関連しているのか
を評価することです。
筋肉の中には圧痛点や硬結が多数存在することがあります。
しかし、そのすべてが治療対象になるわけではありません。
トリガーポイント療法では、
触診
→ 症状再現
→ 関連痛の確認
→ 機能評価
→ 介入
→ 再評価
という流れで臨床的な関連性を判断していく必要があります。
1.トリガーポイントとは何か
Myofascial Trigger Point(MTrP)は一般的に、
骨格筋のTaut Band(索状硬結)内に存在する、機械的刺激に対して過敏な部位
として説明されます。
2018年に行われた国際Delphi consensusでは、トリガーポイントを臨床的に判断する主要な所見として、
① Taut Band
筋線維方向に沿って触知される索状の緊張帯
② Hypersensitive Spot
Taut Band内に存在する特に過敏な圧痛部位
③ Referred Pain
刺激によって局所とは異なる領域に生じる疼痛・感覚
の3項目が提案されています。
特に重要なのが、
「押して痛い」だけではトリガーポイントとは判断できない
ということです。
圧痛点そのものは健常者にも存在します。
そのため、
「硬い」
「痛い」
という2点だけで治療ターゲットを決定するのではなく、
患者の症状を再現するか
という臨床的関連性を見る必要があります。
2.Active Trigger PointとLatent Trigger Point
トリガーポイントは臨床上、
Active Trigger Point
と
Latent Trigger Point
に分類されます。
Active Trigger Point
患者が普段感じている症状と関連しているトリガーポイントです。
圧迫すると、
「先生、そこを押されるといつもの頭痛が出ます」
「そこを押されると腕に響きます」
「いつもの腰痛と同じ感じです」
というように、
患者が普段訴えている症状が再現される
ことが特徴です。
これはRecognitionと呼ばれ、臨床では非常に重要です。
単に「痛い」ではなく、
「いつもの症状と同じ」
という反応です。
Latent Trigger Point
通常は自発痛を生じていないものの、圧迫すると局所痛や関連痛が生じるポイントです。
本人は普段その場所に痛みを感じていなくても、
・ROM制限
・筋出力低下
・運動パターンの変化
・圧痛
・筋緊張
などに関与している可能性があります。
ただし、Latent Trigger Pointを見つけたからといって、
必ず治療する必要があるわけではありません。
主訴との関連性が低い場合、そのポイントを治療しても患者の問題が変化しない可能性があります。
3.最も重要なのは「関連痛」
トリガーポイント療法の大きな特徴が、
Referred Pain=関連痛
です。
関連痛とは、刺激した場所とは異なる部位に症状が現れる現象です。
例えば、
肩が痛い患者だからといって、
必ずしも肩の痛い場所そのものに原因があるとは限りません。
筋筋膜性疼痛では、
原因となる筋肉と患者が痛みを感じる場所が離れている
ことがあります。
4.代表的な関連痛パターン
小殿筋

小殿筋では、
・殿部
・大腿外側
・下腿外側
などへ症状が広がることがあります。
この関連痛パターンは坐骨神経痛様に見えることがあります。
したがって、
「脚に痛みがある=坐骨神経」
と判断するのは危険です。
神経根症状なのか、
末梢神経なのか、
筋筋膜性関連痛なのか、
鑑別が必要です。
中殿筋

中殿筋では、
・仙腸関節周囲
・殿部
・腰部
などに関連痛を生じることがあります。
患者が
「腰の横が痛い」
と訴えている場合でも、殿筋群の評価が必要になることがあります。
腰方形筋

腰方形筋では、
・腰部
・腸骨稜周囲
・仙腸関節周囲
・殿部
などに関連痛を生じることがあります。
慢性腰痛患者では非常によく評価する筋の一つですが、
腰方形筋が硬いからといって、
腰痛の原因が腰方形筋とは限りません。
股関節機能低下や体幹安定性低下を代償して過剰活動している可能性も考える必要があります。
胸鎖乳突筋

胸鎖乳突筋では、
・側頭部
・前頭部
・眼周囲
・耳周囲
などへの関連症状が生じることがあります。
頭痛患者では重要な評価対象になります。
ただし頭痛には、
・一次性頭痛
・頸性頭痛
・神経学的疾患
・血管性疾患
なども存在するため、頭痛をすべて筋筋膜性として扱ってはいけません。
上部僧帽筋

臨床で最も触診されることが多い筋の一つです。
関連痛は、
・頸部
・後頭部
・側頭部
・肩周囲
へ広がることがあります。
肩こり患者では頻繁に圧痛が見つかりますが、
上部僧帽筋が硬い=上部僧帽筋が原因
とは限りません。
例えば、
胸椎可動性低下
↓
肩甲骨運動不良
↓
上部僧帽筋の代償的活動増加
という場合、
上部僧帽筋は原因ではなく結果です。
5.トリガーポイント触診の基本
触診ではまず筋線維方向を把握します。
適当に筋肉を押すのではなく、
STEP1
対象筋の走行を確認する
↓
STEP2
筋線維に対して垂直方向へ触診する
↓
STEP3
Taut Bandを探す
↓
STEP4
Taut Bandに沿って移動する
↓
STEP5
最も過敏なSpotを確認する
↓
STEP6
持続圧を加える
↓
STEP7
局所痛・関連痛・症状再現を確認する
という順序で進めます。
重要なのは、
患者に必ずフィードバックを求めることです。
「痛いですか?」
だけでは不十分です。
例えば、
「この痛みは普段感じている痛みと同じですか?」
「どこか別の場所に響きますか?」
「いつもの症状が再現されていますか?」
と確認します。
6.圧痛点とトリガーポイントの違い
ここは施術者が混同しやすい部分です。
Tender Point
押した場所に局所的な圧痛がある。
Trigger Point
局所圧痛に加え、関連痛や患者の症状再現などを伴う可能性がある。
つまり、
圧痛があるだけではTrigger Pointとは言えません。
臨床では、
「押して痛い場所を全部治療する」
という方法は避けるべきです。
なぜなら、慢性疼痛患者では広範囲に圧痛が存在するケースがあり、末梢組織だけでなく疼痛処理系の変化が関与している可能性もあるからです。
7.トリガーポイントの病態は完全には解明されていない
トリガーポイントについてよく説明される仮説の一つが、
Integrated Trigger Point Hypothesis
です。
概念的には、
過負荷・反復負荷・持続収縮
↓
局所筋線維へのストレス
↓
終板部での異常活動
↓
局所持続収縮
↓
局所循環・代謝環境の変化
↓
侵害受容器の感作
↓
疼痛・圧痛
という流れが提唱されています。
ただし、このメカニズムがすべてのトリガーポイントを完全に説明しているわけではありません。
現時点では、
トリガーポイントの存在や病態生理について研究上の議論が残っている
ことを施術者は理解しておく必要があります。
したがって、
「乳酸が溜まったしこり」
「筋膜が癒着したもの」
などと単純化して患者へ説明することは避けた方がよいでしょう。
8.なぜ関連痛が起こるのか
関連痛を理解するには、中枢神経系の理解が必要です。
一つの考え方として、
Convergence Projection Theory
があります。
異なる組織からの侵害受容入力が脊髄後角の同一ニューロンへ収束することで、中枢神経系が疼痛発生部位を誤って認識する可能性があります。
また持続的な侵害受容入力によって、
Central Sensitization
が関与するケースも考えられます。
その結果、
・疼痛領域拡大
・圧痛閾値低下
・刺激に対する過敏性増加
などが生じることがあります。
したがって慢性症例では、
「トリガーポイントを取り切れば治る」
という単純なモデルではなく、
末梢組織+神経系+心理社会的要因
まで考える必要があります。
9.トリガーポイントが形成されやすい背景
臨床ではトリガーポイントそのものより、
なぜその筋に過負荷が生じたのか
を考えることが重要です。
例えば、
・反復動作
・持続的筋収縮
・急激な負荷増加
・不動
・運動不足
・睡眠不足
・精神的ストレス
・関節可動域制限
・他筋の筋力低下
・Motor Controlの低下
などが背景に存在する可能性があります。
例えば上部僧帽筋に何度介入しても再発する患者では、
上部僧帽筋を治療し続けるのではなく、
なぜ上部僧帽筋が過剰活動しているのか
を考えます。
10.「原因筋」と「結果として硬くなった筋」を分ける
例えば肩関節挙上時に上部僧帽筋が過活動している患者を考えます。
前鋸筋機能低下
↓
肩甲骨上方回旋不足
↓
上部僧帽筋による代償
↓
上部僧帽筋過緊張
↓
Trigger Point形成
というケースであれば、
上部僧帽筋への介入だけでは不十分です。
この場合、
トリガーポイント治療
+
前鋸筋Activation
+
肩甲胸郭関節運動再教育
まで必要になる可能性があります。
つまり、
トリガーポイントを見つけることがゴールではありません。
その筋が過負荷になった理由まで評価する必要があります。
11.トリガーポイント治療
徒手的な治療としては、
・Ischemic Compression
・持続圧
・軟部組織モビライゼーション
・筋膜への徒手刺激
・ストレッチ
・MET
などがあります。
鍼灸領域では、
・鍼刺激
・電気鍼
などを組み合わせる場合もあります。
また医療領域ではDry NeedlingやTrigger Point Injectionなども研究されています。
ただし現在の研究では、マイオファシャルペインに対する各種治療で疼痛や機能への改善が報告されている一方、どの治療法・パラメータが最適なのかについては十分な統一見解がありません。
したがって重要なのは、
「この手技が最強」という考え方ではありません。
患者の状態に応じて刺激量や治療法を選択します。
12.持続圧は強ければ強いほど良いわけではない
トリガーポイント治療では、
「痛いほど効く」
という考え方になりやすいですが、これは注意が必要です。
過剰な圧刺激は、
・防御性収縮
・疼痛増悪
・不快感
・治療後疼痛
につながる可能性があります。
したがって、
患者が許容できる刺激量
を考える必要があります。
特に、
・急性期
・疼痛過敏が強い
・恐怖回避傾向が強い
・慢性疼痛
・広範囲に圧痛がある
症例では、局所への強刺激を繰り返すより、低刺激で反応を確認した方が良い場合があります。
13.治療後は必ず再評価する
ここが最も重要です。
例えば、
治療前
肩外転
90°で肩前面痛
NRS 6/10
↓
棘下筋Trigger Point確認
↓
圧迫で肩前面に普段と同じ症状再現
↓
棘下筋へ介入
↓
再評価
肩外転
140°まで改善
NRS 2/10
この場合、
棘下筋の筋筋膜性疼痛が症状に関与していた可能性が高まります。
逆に、
介入後も
ROMも疼痛もまったく変わらなければ、
そのトリガーポイントは主要な症状発生因子ではなかった可能性
があります。
そこで別の仮説へ移ります。
14.治療効果を触診だけで判断しない
施術者がよく行う評価に、
「さっきより柔らかくなりました」
があります。
しかしこれは患者の主訴と直接関係していない可能性があります。
例えば、
触診上柔らかくなった
↓
しかし
肩を上げた痛みは変わらない
のであれば、
臨床的には治療目的を達成していません。
評価すべきなのは、
・疼痛
・ROM
・筋力
・動作
・Functional Test
・患者が困っている動作
です。
組織の硬さを変えることではなく、患者の機能を変えること
が治療目標になります。
15.トリガーポイントと神経症状を鑑別する
関連痛は神経症状に似ることがあります。
特に、
小殿筋
棘下筋
斜角筋
などでは、末梢方向へ症状が広がることがあります。
そのため必ず、
・Dermatome
・Myotome
・腱反射
・神経伸張テスト
・Structural Differentiation
などを必要に応じて確認します。
例えば下肢痛なら、
SLR
Slump
神経学的所見
を確認します。
つまり、
「押して脚に響いた=小殿筋のトリガーポイント」
と決めつけないことです。
16.トリガーポイント療法と運動療法
トリガーポイントへの局所介入で症状が改善しても、その状態を維持するには運動療法が重要です。
研究でも、マイオファシャルトリガーポイントに対する臨床治療に運動療法を併用する有用性が検討されています。
例えば、
上部僧帽筋
↓
前鋸筋・下部僧帽筋
腰方形筋
↓
殿筋群・体幹筋
大腿筋膜張筋
↓
中殿筋
など、
過活動筋への治療だけでなく、
その筋を過活動させている運動制御の問題
へ介入します。
17.臨床での基本フロー
トリガーポイント療法を臨床で使用する場合、
以下の流れが使いやすくなります。
① 主訴を確認
どこが痛むのか。
↓
② 症状が出る動作を確認
何をすると痛むのか。
↓
③ ベースライン測定
ROM
NRS
Functional Testなど。
↓
④ 仮説形成
筋筋膜性なのか。
関節性なのか。
神経性なのか。
↓
⑤ 対象筋を触診
Taut Band
Hypersensitive Spotを確認。
↓
⑥ 症状再現
Referred PainとRecognitionを確認。
↓
⑦ 介入
適切な刺激量で治療。
↓
⑧ 再評価
同じ動作を行う。
↓
⑨ 原因分析
なぜその筋に過負荷がかかったのか。
↓
⑩ 運動療法・セルフケア
再発予防へつなげる。
18.トリガーポイント療法で最も重要な考え方
施術者にとって重要なのは、
トリガーポイントを見つける能力ではありません。
重要なのは、
そのポイントが患者の症状と関連しているかを判断する能力
です。
身体中を触れば圧痛点は多数見つかります。
しかし、それを全部治療する必要はありません。
臨床では、
「ここが硬いから治療する」
ではなく、
「この部位を刺激すると患者の主訴が再現され、この部位へ介入すると主訴となる動作が変化する」
というところまで確認します。
これによってトリガーポイント療法は、
単なる「コリほぐし」ではなく、
評価に基づいた臨床的介入
になります。
まとめ|トリガーポイントは「押して痛い点」ではない
トリガーポイントを臨床で扱う上では、
Taut Band
+
Hypersensitive Spot
+
Referred Pain
+
Symptom Recognition
を確認することが重要です。
ただし、トリガーポイントの診断には現在も完全なゴールドスタンダードが確立しているわけではなく、触診の信頼性や病態機序についても議論があります。したがって、触診所見だけで診断を完結させるのではなく、患者の症状、動作、神経学的所見、関節機能などを統合して判断する必要があります。
臨床で重要なのは、
Trigger Pointを見つける
↓
治療する
ではありません。
主訴を評価する
↓
仮説を立てる
↓
Trigger Pointとの関連性を確認する
↓
介入する
↓
主訴を再評価する
↓
なぜその筋に負荷が集中したのかを評価する
↓
運動療法につなげる
という流れです。
トリガーポイントは治療の「ゴール」ではなく、
患者の疼痛と運動機能を理解するための一つの臨床所見
として捉える。
この視点を持つことで、トリガーポイント療法はより再現性の高い徒手医学の一部として使えるようになります。



