
出産後、
「立ち上がると腰が痛い」
「歩いていると骨盤がグラグラする感じがする」
「抱っこをすると腰やお尻がつらい」
「妊娠前と比べて体が安定しない」
このような症状があっても、育児に追われていると、つい自分の身体のことは後回しになってしまいます。
「産後だから仕方ない」
「時間が経てば自然に戻るはず」
と思って、そのままにしている方も少なくありません。
実際、多くの産後の腰痛や骨盤周囲の痛みは時間とともに軽くなっていきます。一方で、一部の方では痛みや動きにくさが長期間残ることが分かっています。 妊娠・出産に関連した骨盤帯痛について、出産後12年まで追跡した研究でも、症状が長期間続く女性が一定数いることが報告されています。
そのため大切なのは、「骨盤を無理やり締める」ことではなく、産後に変化した筋力・姿勢・身体の使い方を少しずつ整えていくことです。
そもそも産後はなぜ腰や骨盤が不安定に感じるの?
妊娠から出産にかけて、女性の身体には非常に大きな変化が起こります。
お腹が大きくなるにつれて重心が変化し、腰・股関節・骨盤まわりには妊娠前とは違った負担がかかります。
さらに出産後は、すぐに妊娠前と同じ身体に戻るわけではありません。
腹部や骨盤底を含めた筋肉の機能、姿勢、呼吸、身体の使い方などが変化した状態で、
赤ちゃんの抱っこ
授乳
おむつ交換
沐浴
床からの立ち上がり
抱っこしたままの歩行
といった負担が一気に始まります。
つまり産後は、身体が回復している途中なのに育児という大きな負荷が加わる時期なのです。
ACOG(米国産婦人科学会)も、産後の運動は出産方法や合併症などを考慮しながら徐々に再開することを推奨しており、骨盤底筋の運動については産後早期から開始できるとしています。

「骨盤がグラグラする=骨盤がずれている」ではありません
ここは非常に重要です。
産後に「骨盤が開いている」「骨盤がずれている」と説明されることがありますが、骨盤のグラグラ感をすべて骨のズレだけで説明することはできません。
産後の不安定感には、
-
腹部や骨盤底筋など体幹を支える機能の低下
-
股関節やお尻まわりの筋力低下
-
妊娠中から続く姿勢の変化
-
腰・骨盤周囲の筋肉の過緊張
-
痛みによる身体の使い方の変化
-
抱っこや授乳による左右差
など、複数の要因が関係していることがあります。
そのため、単純に「骨盤を締めれば大丈夫」というものではありません。
今の身体で、どこが動きにくく、どこが支えられていないのかを確認することが重要です。
産後の腰痛・骨盤のグラグラ感を放置する5つのリスク
① 腰痛が慢性化する可能性がある
「産後の腰痛だから、そのうち治るだろう」
と思っていても、痛みがある状態で毎日抱っこや育児を続けていると、身体は無意識に痛みを避ける動き方を覚えていきます。
例えば腰が痛いから、
片側の足に体重をかける
腰を反らせて抱っこする
片側のお尻で赤ちゃんを支える
といった姿勢を繰り返します。
最初は痛みを避けるための動作でも、それが毎日の習慣になると、腰・股関節・背中など特定の場所に負担が集中しやすくなります。
産後の骨盤帯痛は多くの場合軽快しますが、すべての方が短期間で自然に症状が消失するわけではありません。
「産後だから仕方ない」と何年も我慢する必要はありません。
② 抱っこが増えるほど負担が大きくなる
産後直後の赤ちゃんはまだ軽いため、腰痛があっても何とか抱っこできます。
しかし赤ちゃんはどんどん成長していきます。
身体の安定性が十分に戻らない状態で抱っこの重量だけが増えると、
腰
骨盤
股関節
肩
首
などへの負担も大きくなっていきます。
特に多いのが、骨盤を前に突き出して赤ちゃんを乗せるような抱っこ姿勢です。
この姿勢を長時間続けると、腰だけではなく背中や股関節周囲にも負担が広がることがあります。
産後ケアは「痛くなった場所だけを見る」のではなく、育児動作まで含めて考えることが大切です。

③ お腹や骨盤底がうまく使えない状態が続く
産後に大切なのが、腹部と骨盤底の機能です。
骨盤底筋は骨盤の下側を支えており、腹部や横隔膜、背骨周囲の筋肉などと協調しながら体幹の安定に関わります。
ところが出産後に、
「お腹に力が入りにくい」
「踏ん張りにくい」
「立ち上がる時に腰ばかり使う」
という状態が続くと、本来体幹全体で支えるはずの負担を腰まわりの筋肉が代わりに頑張ることがあります。
すると、
腰がパンパンになる
背中が張る
抱っこすると腰がつらい
長時間立っていられない
といった状態につながることがあります。
だからこそ産後ケアでは、単純な筋トレではなく、呼吸・腹部・骨盤底・股関節を連動させることがポイントになります。
④ 「痛くない動き方」のクセが残ってしまう
痛みが続くと、人は自然に痛みを避けます。
右の骨盤が痛ければ左側へ体重をかける。
立ち上がる時に腰が痛ければ、腕を使って身体を持ち上げる。
抱っこがつらければ、いつも同じ側の骨盤に赤ちゃんを乗せる。
こうした代償動作は、その場では身体を守るために必要なこともあります。
しかし痛みが落ち着いてからも動作のクセだけが残ると、数年後も腰・肩・股関節などに負担をかけ続ける可能性があります。
だから産後ケアでは「痛いところを揉む」だけではなく、
立つ・歩く・しゃがむ・抱っこする
といった動きを確認することが重要なのです。

⑤ 2人目・3人目の妊娠時につらさを感じることも
もう一つ考えておきたいのが、次の妊娠です。
1人目の出産後に腰痛や骨盤周囲の痛みが続いている状態で次の妊娠を迎えると、身体への負担がさらに増えることがあります。
特に妊娠・出産に伴う骨盤帯痛の既往は、次回の妊娠でも症状を考えるうえで重要な情報になります。骨盤帯痛については再発がみられることも報告されています。
「次の妊娠を考えたらケアを始める」ではなく、現在腰痛や不安定感が残っているのであれば、早い段階から身体を整えておくことが大切です。
「数年後に響く」というのはどういうこと?
「産後の骨盤を放置すると、数年後に必ず身体がゆがむ」
という意味ではありません。
産後の身体は自然に回復していく部分も多くあります。
問題なのは、痛みや不安定感が続いているのに、その状態に合わせた身体の使い方が何年も習慣化してしまうことです。
例えば、
産後に腰が痛い
↓
腰をかばって抱っこする
↓
片側に体重を乗せるクセがつく
↓
お尻や体幹を使わなくなる
↓
腰の筋肉ばかり頑張る
↓
赤ちゃんの成長とともに負担が増える
↓
腰痛を繰り返す
という流れです。
長期間症状が続いていること自体が、産後の骨盤帯痛の長期的な経過に関係することも報告されています。
だからこそ、「まだ我慢できるから大丈夫」ではなく、今の身体の使い方を確認することが大切なのです。
産後ケアは「骨盤を締める」だけではありません
当院では産後の腰痛や骨盤の不安定感に対して、いきなり強く骨盤を押したり、ボキボキ矯正したりするのではなく、まず身体の状態を確認します。
骨盤だけを見るのではなく、
姿勢
腰の動き
骨盤の動き
股関節の可動域
お尻の筋力
腹部の機能
左右の荷重バランス
立ち上がり方
歩き方
などを確認します。
そのうえで状態に応じて、筋膜や筋肉へのアプローチ、関節モビライゼーション、トリガーポイント療法、姿勢や動作へのアプローチなどを組み合わせます。
さらに重要なのが、施術だけに頼らず自分で身体を支えられる状態をつくることです。
必要に応じて、産後の状態に合わせた呼吸法や体幹トレーニング、骨盤底筋、股関節・お尻のエクササイズ、抱っこ姿勢などもお伝えします。

こんな症状がある方は一度身体をチェックしてみてください
産後数週間から数か月経っているのに腰痛が続く、歩くと骨盤がグラグラする、寝返りや立ち上がりで骨盤周囲が痛む、抱っこすると腰が強く反る、片側ばかりに体重をかけてしまう、妊娠前のようにお腹へ力が入りにくい――こうした状態が続いている場合は、一度身体の機能を確認してみる価値があります。
なお、強い痛みが急に出た場合、発熱を伴う場合、脚に強いしびれや筋力低下がある場合、排尿・排便の異常などがある場合は、接骨院・整体だけで判断せず、産婦人科や整形外科など医療機関への相談を優先してください。
まとめ|「産後だから仕方ない」で終わらせないことが大切
出産は女性の身体にとって非常に大きな出来事です。
その直後から、休む間もなく育児が始まります。
多少の腰痛や身体の違和感が出ること自体は珍しくありませんし、多くの方は徐々に回復していきます。
しかし、
何か月経っても腰が痛い
骨盤が安定しない感じがする
抱っこすると腰や股関節がつらい
という状態まで「産後だから」と我慢し続ける必要はありません。
重要なのは、骨盤を無理やり元の位置に戻すことではなく、産後に変化した身体を評価し、動きや筋力を少しずつ取り戻していくことです。
産後の身体は、これから何年も続く育児を支える大切な身体です。
今感じている小さな違和感を「まだ我慢できるから」と放置せず、腰・骨盤・股関節・体幹を含めて、一度身体の状態を確認してみてください。
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